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井桁雅臣展
ほどけゆく花

Statement

「 ス テイ ニ ング ( 染 み 込 ま せ )」 と 呼 ば れ る 制 作 技 法 を 主 に 用 い 、
下 地 処 理 の さ れ て い な い 「 帆 布 」( 綿 ) の キ ャ ンバ ス に アク リ ル 絵
具 に よ る 色 彩 を 染 み 込 ま せ て 描 い て い く 。
「 支 持 体 」 を 自 ら 製 作 し た 「 レ リ ー フ 絵 画 」 と 決 別 し た 2 0 0 3 年 以降 は 、 純 粋 に 描 く こ と の 喜 び へ の 回 帰 か ら 透 明 感 の あ る 鮮 や か な色 彩 と 筆 の ス ト ロ ー ク や ド ロ ー イ ング に よ る 滲 み と 線 描 が 画 面 上 を乱 舞 す る 華 や か な 作 品 を 制 作 。 観 る 者 の 遠 い 記 憶 を 優 し く 刺 激 する 絵 画 を 描 き 続 け て い る 。
「 ほ ど け て ゆ く 花 」 は 、 井 桁 の 絵 画 に お け る 特 徴 の 一 つ で あ る
「 ボ タ ニ カ ル な イメ ー ジ 」 を 真 正 面 か ら 見 据 え た テ ー マ と な っ て いる 。「 a f l o w e r c o m i n g u n d o n e 」 は 、 保 た れ て い た は ず の 美 し さや 心 の あ り よ う が 壊 れ 始 め て い る 様 子 を 表 す 言 葉 だ 。 井 桁 が こ のタ イ ト ル に 込 め た 想 い は 、 愛 や 安 心 の 中 で 心 が ほ ど け て い く 、 新し い 何 か へ と 変 わ っ て い く 様 子 を も 意 味 して い る 。 本 展 で は あ え て観 る 者 に 「 花 の よ う な 」 イメ ー ジ を 共 有 し な が ら 、 様 々 な 世 界 が 広が っ て い く こ と を 願 っ て い る 。

会期: 2026年9月9日(水) – 9月27日(日)
開廊時間: 13:00 – 18:00

会場: Gallery まほろば 1F
札幌市豊平区月寒西3条7丁目1番31号
休廊日: 月曜日・火曜日
作家在廊予定日:9/9(水).13(日).16(水).20(日).26(土).27(日/15:30~)

札 幌 在 住 画 家 ・ 美 術 家
1 9 6 4 札 幌 に 生 ま れ る
1 9 8 8 北 海 道 教 育 大 学 札 幌 分 校 特 設 美 術 課 程 卒 業

[主な個展]
2024 井桁雅臣展「花に染む。」北翔大学円山キャンパス(札幌)
井桁雅臣展「水に咲く。」らいらっく・ぎゃらりい 移転オープン記念展 Vol.8(札幌)
2020 道銀文化財団アーティストファイル
「井桁雅臣展 vol.1~3」らいらっく・ぎゃらりい(札幌)
2019 井桁雅臣展「心と色をむすぶ。絵があること。」The JOHNSON STORE(札幌)
2017 六花ファイル第 6 期収録作家作品展 六花亭福住店(札幌)
2014 第129回 STV エントランスアート「僕らの短い永遠」(札幌)
練成会グループ本部ビルロビー(~2016 年迄)(札幌)
2012 六花ファイル第 3 期収録作家作品展 六花亭帯広西三条店(帯広)
第21回 道銀芸術文化奨励賞 受賞記念展 らいらっく・ぎゃらりい(札幌)
2011 六花ファイル第 3 期収録作家作品展 六花亭福住店(札幌)
2010 きのとや カフェギャラリー(札幌)
2008 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド Space2(札幌)

[主なグループ展]
2021 道銀文化財団創立 30 周年記念 「道銀文化奨励賞受賞作家展」 北海道立近代美術館(札幌)
2015 「Re-crossing それぞれの生きること、描くこと。」 茶廊法邑(札幌)
2012 JR タワー・アートプラネッツ 2012「アルタイルの庭」 JR タワープラニスホール(札幌)
2010 「カラー・パワー!色って不思議 展」 北海道立近代美術館(札幌)‼
2009 「札幌美術展 真冬の花畑」札幌芸術の森美術館(札幌)
2008 「アジアプリントアドベンチャー 2008 in おといねっぷ」 (音威子府村、北海道)
2003 「VOCA 展 2003 現代美術の展望~新しい平面の作家たち」 上野の森美術館(東京)
2001 「HIGH TIDE ーラディカルな意思の現れー」 北海道立近代美術館(札幌)
1996 「北の創造者たち 1996 〈 平面の断章〉 自立する素材と形」 札幌芸術の森美術館(札幌)
1989 「RENEWAL ー 1990 への前哨展」 北海道立
近代美術館(札幌)
1988 「1988 北海道現代作家展」 北海道立近代美術館(札幌)

[受賞]
2012 「第 21 回 道銀芸術文化奨励賞」受賞

[コレクション]
札幌芸術の森美術館(札幌)
平河町森タワー(東京)
道銀文化財団(札幌)

井桁雅臣の絵画

 透明感のある鮮やかな色彩が舞い、滲んだ朧げな色面と躍動的な描線の重なりが、心地良い広がりと奥行きを生む。
 あの日感じた光や風、香り、音⋯。井桁雅臣の絵画は、観る人それぞれの記憶の奥をくすぐるように、静かに、そして優しく働きかけてくる。
 作品に添えられた詩的なタイトルと文章は、各自が抱いたものとの共感と差異のなかで、さらに豊かなイメージを導く後押しをする作用があるようだ。

 井桁がこうした「ステイニング(染み込ませ)」による作品を手掛けるようになったのは、2003年の「VOCA―新しい平面の作家たち」(上野の森美術館)に出品したころからなので、20年以上にわたり追求してきた表現ということになる。当初は、帆布の地を余白として残した作品も多かったが、最近は、画面全体を色彩が覆う傾向が強まり、またドローイングによる精緻な描き込みも増えてきた。

 彼は私の大学の後輩であり、その活動に対しては、北海道教育大学札幌分校特設美術課程の在学中からグループ展やニューヨーク旅行などを精力的に行い、かなり目立った存在であったこともあって、ずっと気にかけて見てきたつもりである。卒業した1988年には、年上の現代美術家達に交じって「北海道現代作家展」に出品。さらに「RENEWAL-1990への前哨展」、「HIGH TIDE」などにも次々と参加し、札幌の同世代のなかで、特に早くから活躍していたと言っていい。
 1990年代には、ぶつかり合う強烈な色彩や断層的な凹凸のあるレリーフ状の支持体を用いた表現によって、絵画の新たな方法論を模索する巨大な作品を制作。北海道では数少ない理知的なアプローチと作品のもつ迫力を評価し、1996年に私が担当した札幌芸術の森美術館での「北の創造者たち'96〈平面の断章〉自立する素材と形」に出品してもらったこともあった。
 しかし、本人は次第に、理論的に推し進める絵画づくりと、自分自身が心から描く悦びを感じる制作とのギャップを感じるようになっていったのだという。その思いが、2003年のVOCA展に出品した、ステイニングによる新たな表現につながっていく。

 その後、しばらく沈黙が続いた。それは、試みはじめた技法を熟成させ、自分のものにするための大切な期間であったにちがいない。5年後の2008年、モエレ沼公園ガラスのピラミッドでの個展で発表した作品の数々は、華やかな色彩がのびのびとしたストロークで画面いっぱいに広がっていた。思いのままに筆を動かすなかで見つけた快い軌跡を、たっぷりと水を含ませた綿地のキャンバス上に何度も重ね、色彩の純度を高めていく。描画行為の痕跡と色への強い関心が全面に出たそれらの作品はまさに描くことに対する純粋な悦びに満ち、さらに詩的な各タイトルと相まって、彼の澄んだ感性によって見つけた日常のなかの輝きの瞬間が、気負うことなく浄化され反映されているように感じられた。
 その個展以来、札幌芸術の森美術館の「真冬の花畑」展(2009年)や北海道立近代美術館の「カラー・パワー!」展(2010年)などに相次いで招待出品するなど再び注目されるようになっていった。

 井桁は頻繁に発表をする作家ではないが、個展やグループ展で作品を観るたびに、ゆっくりと、しかし確実に彼独自の世界が深まっているように感じる。それを導いているものとして、彼が大切にしているだろう、いくつかの要素があると思っている。色彩自体が生理的にもたらす効果。色の進出や後退を含めた錯視的な奥行表現による絵画空間への問い。これらは、レリーフ状の作品を試みていたころから変わらずに探求してきたものだ。そして、つかみどころがない曖昧なものだからこそ広がるイメージの豊かさ。視覚の快楽をともなって記憶に働きかける力。描く自分の心に正直でありたいという素直な気持ち。こうしたことが重なり合う、絵画に向かう真摯な姿勢から彼の作品が生まれているにちがいない。

 大きな作品の前に立ち、視覚いっぱいに広がる色彩の揺らめきを体感するのもいい。愛らしい小品が並び、色のダンスのバリエーションを楽しむのも素敵だ。今回の展覧会は、本人によって「ほどけゆく花」というタイトルが付けられている。確かに井桁の作品から“花”を連想する人も多いだろう。それは、表面的な色と形だけからもたらされるものではないのかもしれない。花は、植物が最も美しい輝きを見せる時であるが、咲き誇る期間は短く、やがて萎れてゆく定めである。しかしまた、花は命をつないでいくための重要な働きをもつ器官でもある。そうした絶頂期と儚さと未来への希望を合わせもつ存在であることを人々は知っているからこそ、井桁の作品に刺激され呼び覚まされる大切な思い出と重なり、“花”を感じさせるのではないだろうか。
 
吉崎元章(本郷新記念札幌彫刻美術館館長)